越前漆:和の心に息づく時代を超えた宝

 朝目覚め、身支度をし、食事を摂ります。その綺麗に漆で塗られたお椀は良い1日のスタートにピッタリ。お味噌汁をその温もりあるお椀で飲み終えた後、さあ出発。学校の給食では子供たちが漆で塗られたお盆に給食を乗せ席に着きます。レストランや宿では、人々が綺麗な漆塗りの器で食事を楽しみ、お正月には漆塗りの重箱に入ったおせちを家族で囲みます。漆で塗られた綺麗なペンで書き物をする人もいるでしょう。

 

 1日の中で気づくとあらゆるところに使われている越前漆。今でも時代のニーズに合わせたものが作られ、ハレの日から日常生活まで実に幅広く越前地方での生活の中に息づいています。現在外食産業・業務用漆器において国内シェア80%を誇る越前漆がどのように始まり、今日に至るまで使われてきたか歴史を見てみましょう。


 起源は今から約1500年前の古墳時代だと言われています。当時の皇子、後の第26代継体天皇が自身の王冠の修復を片山集落(現在の鯖江市河和田地区片山町)の塗師に命じ、その出来栄えに感動した皇子はこの地域に漆器の生産を推奨したことで始まりました。良質な材料が取れる地域、古くから漆の樹液を採取する漆掻きが多くいたこと、温度や湿度が適していたことなどが相まって発展していきます。

越前漆器協同組合|越前漆器のこと

 

 室町時代には、仏事に漆のお椀が取り入れられることで普及のきっかけとなり、江戸時代の末期には、越前が輪島の「沈金」や京都の「蒔絵」など他の地域の技法を取り入れ、越前漆に華やかさと上品さを加えたこと、明治時代にはお椀などの「丸もの」から箱、盆などの「角もの」を作り出したことにより一気に製品の幅が広がっていきました。


 その後、これまでの多様な製品群と大正時代になって整えられた量販体制により名古屋、大阪などの大消費地への進出を果たし、現在の全国シェア80%へと繋がっているのです。


 現在も越前漆は伝統を守りながら新たな挑戦をし続けています。お椀を始めとした食器類を洋食やスイーツに合うようにポップなカラーで塗ることや、食洗機対応にすることなど様々なアイディアを実現させています。この長い歴史ある越前漆はその落ち着いた光沢と上品な華やかさ、そして美しく深い色合いで私たちの心を和ませてきました。越前漆は歴史と発展を掛け持つ代表的な伝統工芸だと言えるでしょう。

 

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