漆産地という、文化的財産
輪島、津軽、会津、越前。これらの名前は、日本を代表する観光地というだけでなく、歴史ある漆の産地——伝統工芸の故郷でもあります。多くの産地では数百年以上前から、文化と技術が途絶えることなく受け継がれてきました。
漆を産む土地には、その土地だけが持つ空気があります。職人の手と地域の風土が重なり合い、他では生み出せない「個性」が生まれる。それが漆産地というものの、本質的な価値です。私たちはこれまでも、産地ごとの特色ある塗を施した万年筆をご紹介してきました。
「大分漆」を創りたい — 15年の夢
Wancherの所在地である大分県は、世界でも有数の温泉街として知られています。しかし漆芸においては、伝統も歴史もほとんどありませんでした。漆芸に携わる職人もごくわずかで、産地と呼べる土壌はありませんでした。
しかしWancherは創業当初から、いつか「大分漆」を創りたいという思いを持ち続けていました。これまで漆芸がなかったからといって、これからも不可能であるというわけではない——そう信じて、職人との出会いを待ち続けたのです。
「これまで漆芸がなかったからといって、
これからも不可能というわけではない」
漆芸家・鬼丸真由美さんとの出会い
青森県出身。津軽塗職人の父と兄のもとで幼少期から技を磨き、縁あって大分へ移住。独自の炭粉技法を確立し、大分の地で作品を作り続けてきた。その出会いが「大分漆」コレクションを生んだ。
鬼丸真由美さんは、青森県出身の漆芸家です。津軽塗職人の父と兄のもとで、子どものころから自然に漆と向き合う環境で育ちました。縁あって大分へ移住し、この地で作品を作り続けてきた彼女との出会いが、Wancherの夢を現実へと変えました。
「大分漆」コレクションは、職人一人の技術と一つの会社の意志が重なり合ったとき、どのような美が生まれるかを証明する作品です。
炭粉技法 — 大分漆の個性
津軽塗は、鮮やかな色彩と独特な斑点模様が特徴の「唐塗」が代表的な技法として知られています。仕掛ベラという専用道具を用い、様々な色を重ねて研ぎ出すことで模様が浮かび上がります。
「大分漆」コレクションの制作にあたり、Wancherは「津軽塗のようにユニークでありながら、異なる見た目・表現方法となるもの」を鬼丸さんに依頼しました。そこで生み出されたのが、炭粉を主役にした独自の塗技法です。
炭粉技法のプロセス
大分漆コレクションの世界
炭色のマットな質感の下から覗く赤い色漆、渦巻状に見える紋様。一本一本が個性的な仕上がりを持ちながら、炭色の落ち着いた雰囲気を損なわない——それが大分漆コレクションの魅力です。
万年筆「大分漆」シリーズのほか、Wancherウォッチの「炭螺鈿」コレクションを通じ、大分漆の芸術性はさらなる広がりを見せています。筆や仕掛ベラを用いて描き上げる独自のデザイン——炭色をベースに、濃淡のある黒、色漆、そして螺鈿。そのすべてが、鬼丸真由美さんの手から生まれた唯一無二の作品です。
産地としての未来へ
大分の地で漆芸を極めた職人と出会い、ともに作品を生み出せることは、Wancherにとって大変光栄なことです。私たちがこの地に蒔いた漆の種が根付き、いつか輪島や津軽と肩を並べる産地のひとつとして認められる日が来ることを、心から願っています。
漆の伝統は、ある日突然生まれるものではありません。職人が地に根を張り、年月をかけて技術と評判を積み重ねることで、初めて産地と呼ばれるようになる。「大分漆」はまだその始まりに過ぎませんが、それは確かな、力強い一歩です。
「いつか大分が、日本を代表する
漆の産地と呼ばれる日のために」